
先輩弁護士インタビュー1
具体的で明確な言葉で成長を後押し
――「壁を壁のまま放置しない」仕組みの力――

入所以来10年あ まりアソシエイトとして若手を引っ張り、自らも成長を遂げてパートナーとなった竹ノ谷弁護士。当事務所の体制作りに関与し、変革の担い手にもなったキャリアを振り返ります。
竹ノ谷 健人
Kento Takenoya
【Profile】
アソシエイトから、2024年7月にパートナーへ。2025年に待望の第一子が誕生し、仕事と子育ての両立に向けて奮闘中。幼少期をアメリカとイギリスで過ごす。2016年9月入所。
┃これまで多く従事した案件
人事労務全般を軸に、個人情報、IT/インターネット領域、さらには不正調査まで幅広く携わってきました。最も多く担当したのは人事労務でして、日常的な相談から社内規程の整備、ハラスメント対応、懲戒処分まで、クライアント企業の「現場」で起きる課題に数多く取り組んできました。また、入所直後が改正個人情報保護法の施行時期と重なり、関連するご依頼が集中的にあったため、個人情報については短期間のうちに密度濃く勉強することができました。そしてIT/インターネット領域は、生活実感を活かせる分野なので、高い関心を持って取り組んでいます。
こうした領域を中心に、日常の業務の中で、クライアントが抱えている課題を理解して、整理して、必要なリサーチを実施して、解決方法を模索して、クライアントにとって最も良い解決方法を提案する。この地道な積み重ねが、結果として現在の私の専門性を形作っていると思います。
┃成長を実感した瞬間
「この案件における経験がターニングポイントだった」というより、「日々の多忙さ」が仕事への向き合い方や取り組み方を変えてくれた面があります。
たとえば、(弁護士業務特有のことではなく、ありふれたことではありますが)「隙間時間を使う」ということは、そこまで忙しくない時にはあまり意識をしないんですよね。「隙間時間を使わないと仕事が回らない」という状況になった時に、「1日の中で、どこに隙間時間があるか」「その隙間時間で何ができるか」ということをよく考えるようになりました。
また、忙しくなると、大きなタスク(たとえば、準備書面や調査報告書の作成)をこなすためのまとまった時間を確保することが難しくなってくるので、「大きなタスクをこなす時間がないなら、小さなタスクに分割するしかない」わけなんですよね。こういったことも、忙しくなってから意識するように(というより、意識せざるを得なく)なりました。
こういった小さな気付きをもとに試行錯誤するのは楽しいですし、それが自分の仕事のクオリティの改善につながったと感じられた時に、ちょっとしたことですけど、成長を実感します。
事務所のパートナーとなってからは、他のパートナーに相談せずに自分の責任で案件に取り組むことが多くなりました。アソシエイトの時にはない緊張感がありますが、自分の見立て通りに案件がクローズできると、「うんうん、ちゃんとできるね」と自分がちゃんと成長できていることを実感しますし、その積み重ねが自信につながっていくと思います。
┃壁にぶつかった時のサポート
大きな挫折として記憶に残るものは多くありませんが、だからこそ「壁を壁のまま放置しない」仕組みの力を感じています。案件への取組みなどを通じて、自分が「できている点」と「できていない点」が事務所から具体的な言葉で示され、次に何を改善すべきかが明確になります。
今でも印象に残っているのですが、入所して半年程度が経過した時に「竹ノ谷さんは、指示したことはこなしてくれるが、指示していないことは全く手をつけようとせず、主体性が足りないように感じる」と指摘されたことがありました。それからは、クライアントから先輩弁護士宛てのメールにたまたま自分がCCで入っていた場合は、先輩弁護士から指示を受ける前に自ら返信案の作成を申し出るなど、主体的に行動するようにしました。
この点が改善したら、「次はこれ」「次はあれ」といった形で至らない点をわかりやすく指摘してもらえたので、伸び悩むと感じることがそこまでありませんでした。「迷子にならない成長ルート」が用意されていたという感覚です。ですから、私自身、アソシエイト弁護士に指導する際は、改善すべき点をできる限り具体的に言語化して伝えることを強く意識しています。

┃仕事と家庭の両立
子どもが生まれてから、仕事と家庭の両立のためには試行錯誤の連続でした(というより、今も試行錯誤の真っ只中です)。現在は週1〜2日は在宅勤務にし、出勤日も夕方4時に事務所を出て5時には帰宅。5時から8時は育児と家事に集中し、寝かしつけ後に仕事を再開します。このスタイルにたどり着く過程で仕事と家庭の両立の仕方について豊島にも相談しましたが、その時に豊島から受けたいくつかのアドバイスをもらったのがとても良かったと思います。
プライベートが充実していなければ、仕事に全力で取り組むことはできないと思いますので、仕事の側面のみならず、プライベートの側面についても、アソシエイト弁護士から相談を受けられるような存在でありたいなと思います。
┃パートナーになってからの変化
取り扱う分野や案件の種類自体は大きく変わっていません。ただ、変わったのは「誰と組むか」を決める比重です。パートナーになると、「自分の仕事が回せればそれで良い」というマインドで仕事に取り組むわけにはいかないということをより強く意識しますので、案件ごとに、各アソシエイト弁護士の力量や得意・不得意、繁忙度を見ながらアサインを考える機会が増えました。
「自分でやった方が早い」という誘惑に負けそうなこともありますが、アソシエイトの育成に資する役割を任せ、結果的に時間がかかることになっても一緒に仕上げる――求められる役割は、確実に「チーム視点」「育成視点」へ移っています。
┃指導する立場として
まず、「司法試験に受かってるんだから、これくらいわかるでしょ」「司法修習を経ているのだから、これくらいわかるでしょ」という先入観を捨てる。ここが出発点です。その上で、仕事ができるようになるために必要なことを徹底して言語化する。「寿司職人は背中で覚えろ」的な考え方が苦手で、言葉にできるものは言葉にして伝えたいんです。「俺の背中を見て覚えろ」という指導スタイルは非効率なことがほとんどなのではないかと思います。
ちなみに、当事務所には弁護士向けの業務マニュアルがあるのですが、この業務マニュアルは、私が3年目のアソシエイトだった時に、「どうせ教わることなのだから、これまで自分が教わったことを文書にまとめた方が、今後教える側も教わる側も楽だ」と考えて作成したものが前身となっています。この頃から、言語化するということの重要性は強く感じていました。
また、我々弁護士は法律等に基づくアドバイスないしサポートをするための専門職ですので、当然ながら法律等に基づく論理的な思考が求められます。また、論理的な思考は、クライアントにアドバイスするにあたり、またクライアントにアドバイスを理解してもらうにあたり、求められることでもあります。ただ、「論理的な思考」とは、具体的には何を指すのか?――最近は、このテーマへの関心が強まっています。
たとえば、司法試験の受験生はみな学んでいるはずの法的三段論法というのは、演繹という推論形式を法分野で応用したものなのですが、「法的三段論法は重要」ということは理解していても「法的三段論法がなぜ重要なのか」「法的三段論法の強みは何か」ということを理解している人は意外と少ないように感じます。また、法的三段論法は万全ではないので、論理的な思考のためには「帰納」「類推」「仮説形成」といった推測的思考を活用する必要があったり、「フレームワーク」「MECE」といった思考法を活用する必要があったりします。論理的な思考というのは社会人一般に求められる素養やスキルでもありますが、弁護士は特に高いレベルでこれらの素養やスキルを求められる職業であると思いますので(他の職業では求められないという意味ではありません)、意識的にこれらの思考法を身につけてほしいなと思っています。
こうした基礎基本を、体系的に腹落ちする形で渡せるようにすることが、育つ側にも育てる側にも最も効果的だと考えています。
┃求める人物像
最初 から完璧な人は求めていません(というより、そのような人は存在しません)。求めているのは、「仕事ができるようになりたいという確固たる意識を持っている人」です。そのモチベーションがない人と当事務所とでは、どうしてもミスマッチになってしまうと思います。
ただし、どれだけ「仕事ができるようになりたい」と思っていても、「そのために必要なことを1から10まで全部教えてください」という姿勢では、なかなか伸びない。仕事ができるために必要なステップとしてどのようなものがあるかは「一緒に」考えてみる、だけどそのステップをクリアするためにはどうすれば良いかは「自分で」一生懸命考えて、実践して、また考えて――そういった試行錯誤を続けられる人と働きたいですね。言い方を変えると「考えることを放棄しない人」かどうかというのも重要なポイントだと思います。

